日本ではアルテッツァの名で知られるあのクルマ、その北米版レクサスIS300の2JZ仕様が、カナダで1000馬力を名乗っていた。いや、正確にはオーナーがそう言っている。見た目はほぼノーマル、マフラーは1本出し。片や同じケベック州のiCarでは、タクシーの黄色に塗られたBMW M5が、屋根の行灯ごと白煙の中に消えていく。静かすぎるクルマと、うるさすぎるクルマ。今シーズン、モントリオールで僕らが出会った両極端の話だ。
【スリーパー】日曜朝のEpicure Classicsにいた白いIS300
映像はわずか14秒。真後ろからの固定カメラで、動くのは排気音だけ。トランクにはLexusのロゴとIS 300のエンブレム、丸い内側のテールランプは純正のまま。リアガラスの上端にFireballのステッカー、ケベックのナンバーにはBBSのナンバーフレーム。テールパイプはバンパー右下から1本だけ顔を出している。左には赤いクルマ、右にはボンネットを開けたシルバーのセダン、フェンス際にはパーカー姿の人だかり、その奥にガソリンスタンドの屋根。日本の大黒PAの朝とそう変わらない光景だ。
キャプションで僕らはそのアイドリングを「チョッピー(ガタついた)」と書いた。音量を上げれば理由はすぐわかる。
【豆知識】IS300にはもともと2JZが載っている
ここがIS300がベース車として愛される理由。2001〜2005年に作られた北米仕様のIS300(XE10)は、工場出荷の時点で2JZ-GEを積んでいる。3.0リッター直6のNA、つまりA80スープラのツインターボ2JZ-GTEの兄弟だ。同じ系譜、同じく頑丈で有名な鋳鉄ブロック、そしてFR。北米のチューニングミーティングで「2JZ」と「IS300」が同じ文で語られるのはそのせいだ。
で、このクルマの中身は? タービンもヘッドも、僕らにはわからないし、当てずっぽうも書かない。オーナーは自分のクルマを「イカれたビルド」と呼び、1000馬力オーバーを申告している。シャシダイには載せていないので、その数字はあくまで彼のもの。2JZが本気で作り込まれるとどうなるかは、筑波を走った900PSのカーボン製AutoBahnソアラを見てほしい。
【ドリフトタクシー】iCarを真横で走るBMW M5 E60
普通のタクシーは滑らないように走る。こいつは滑るためだけに存在する。E60世代のBMW M5を、チェッカー柄のストライプ入りのタクシーイエローに塗り、ドアにはDRIFT TOURの文字、ボンネットには黒いストライプ、白いマルチスポークホイール、バンパーにはスポンサーステッカー、屋根には行灯。ドリフトタクシーの仕事は、助手席に誰かを乗せること。モントリオールの北、ミラベルにあるモータースポーツ施設iCarの広いコンクリートパッドがその舞台で、カラーリングは僕らの投稿でタグ付けしたDrift Toursのものだ。
2005〜2010年のE60 M5は、BMWが売ったセダンの中でいちばんぶっ飛んだ一台。S85は5.0リッターV10で507PS、レッドラインは8000rpm超え。F1由来の発想を5人乗りのエグゼクティブセダンに押し込んだエンジンだ。僕らはクリップに#s85とタグを付け、それを否定する材料も見ていない。ただしボンネットは開けていないので、エンジンについては「M5の看板」として読んでほしい。
30秒のスモーク、秒単位で


リールは30秒で、その日の複数の場面をつないでいる。途中で空が曇りから快晴に変わるのがその証拠だ。最初の5秒、タクシーは奥の紅白バリア沿いをすでに横向きでやってくる。6秒目で煙を吐きながら目の前を真横で通過。7〜19秒は黒いタワーとピンクのスポンサーバナーの前を大きな弧を描いて流していく。22秒でフルカウンターのままこっちを向き、24秒からはドーナツターン。最後は煙がクルマを丸ごと飲み込む。
僕らのキャプションでは「ダブルV10」のドリフトタクシーと書いた。でもこのクリップで画面に映る黄色いM5は常に1台だけ。2台目はお見せできない。フルバージョンはまた後日。助手席体験はドリフトを理解するいちばんの近道で、エビスでもD1グランプリの記事でJZX110マークIIグランデが同じ役目をしていた。北米のトップカテゴリーならフォーミュラ・ドリフト スタッフォード2026をどうぞ。
まとめ:ケベックのクルマ好きは両極端
モントリオールのクルマ好きが集まるのはF1の週末だけじゃない(もちろんあの週末は別格で、2026年カナダGPウィークエンドのクルマたちはこちら)。普段の週末は日曜朝の駐車場ミーティング、そして街のすぐ北、ミラベルにはドリフトパッドがある。2台が教えてくれたのは同じこと。ケベックでいちばん面白いクルマは、いちばん普通に見えるやつか、タクシーに化けたやつだ。


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