グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2018。最新の専用マシンがひしめく丘を、20年前のツーリングカーの形をしたクルマが駆け上がって、総合3番手タイムを叩き出した。そのクルマが、このBMW E36 M3だ。
僕らが出会ったのは、ポーランド・ヴロツワフのULTRACE 2025。約1000台が並ぶ会場で、なぜか何度も足がこっちに戻ってしまった。見た目はジムで鍛えすぎたE36 M3。でもブルーとホワイトのボディの下で眠っているのはJudd製のV8。プロトタイプレースの世界から来たレーシングエンジンで、BMWがM3に与えたどんなレブリミットよりも、はるか上まで回る。
【ここがヤバい】心臓はル・マン育ちのJudd KV675
心臓部はJudd KV675。ル・マンのスポーツプロトタイプ用エンジンで知られる、ジョン・ジャッドのエンジン会社が作った3.4リッターV8だ。軽くて、コンパクトで、回すために生まれてきたエンジン。ヘアピンから弾かれたように立ち上がらなきゃいけないショートホイールベースのクルマには、これ以上ない組み合わせだ。音は耳で聞くというより、胸で受け止める感じ。
ボディに並ぶKW、Vossner、Kathan、Juddのステッカーは、ただのスポンサーロゴじゃない。このクルマを走らせ続けている人たちの名簿みたいなものだ。
【豆知識】ゲオルク・プラザという男


このE36は、ヨーロッパのヒルクライム史に残る物語の主役のひとつ。ドイツ人ドライバーのゲオルク・プラザはキャリアの大半をこのクルマで戦い、ヨーロッパの山岳レースでもっとも有名なマシンのひとつに育て上げた。その後プラザは、BMW 1シリーズをベースにした新しいマシンへ移っている。
ヒルクライムをざっくり言えば、峠のような山道を閉鎖して、一台ずつ上りのタイムを競うレース。日本のクルマ好きなら、それだけで血が騒ぐはず。
【復活劇】仲間たちが組み直した一台
プラザが亡くなったあと、サスペンションメーカーKW automotiveの創業者クラウス・ヴォールファルトが、プラザの家族からこのM3を譲り受けた。
2017年の秋、KWのスタッフ、プラザの友人たち、かつてのチームメイトが集まって、みんなでこのクルマを組み直した。そして翌年の夏、グッドウッドへ。ハンドルを握ったのはプラザの友人イェルク・ヴァイディンガーで、結果は冒頭のとおり総合3番手タイム。20年前のツーリングカーの形が、最新の専用マシンを上回ってみせた。
【ディテール】近づくほどエンジニアリングが見えてくる
近寄って見ると、エンジニアリングがあちこちに顔を出す。フロントフェンダーはAvonのタイヤを履いたBBSのレーシングホイールを覆うように、ど派手に張り出している。リアバンパーの下からは長くフラットなディフューザーが伸び、スワンネックのリアウイングはルーフとほぼ同じ高さ。車高は路面からわずか数ミリ。シャコタンなんて言葉じゃ追いつかない。
ドアには「Arrivederci」の文字。イタリア語で「さようなら」。抜き去っていく相手への、これ以上ない別れの挨拶だ。
【まとめ】E36の「本気」はここまで行ける
E36 M3といえば、ふつうは手の届く90年代のスポーツクーペとして記憶されている。でもこのクルマは、レギュレーションが自由になればこのプラットフォームがどこまで行けるのか、そして亡きドライバーの遺産を走らせ続けるために仲間たちがどれだけのことをできるのかを見せてくれる。
ヨーロッパのショーで、パドックの奥から甲高いV8が聞こえてきたら、迷わずその音を追いかけよう。僕らはそうやって、ULTRACE 2025でこのクルマにたどり着いた。山でクルマを走らせる文化は日本にもある。横向きのほうがお好みなら、福島の山で撮ったD1GPエビス2025もどうぞ。





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