エンジンの横に立っていた男は、両手でがっちり耳をふさいでいた。しかも慣れた顔で。TMPカユガで撮ったPro Modのドラッグレースのリールは、そんな場面から始まる。黒×赤のカマロのボンネットから、スーツケースくらいあるスーパーチャージャーのスクープが突き出していて、ステージングエリアでアイドリングしているだけで足元の地面がうなる。僕らはこれを生で見るのは初めてだった。見る前と後で、もう同じ人間じゃない。
【豆知識】Pro Modってどんなクラス?
- 正式名はPro Modified。いわゆる「ドアスラマー」系でいちばんぶっ飛んだクラス
- 見た目はカマロ、マスタング、コルベットといった市販車の形で、ドアもちゃんと開く
- 中身は専用設計のパイプフレームシャシーにカーボンボディ
- エンジンは巨大。レギュレーションによってスーパーチャージャー、ターボ、ナイトラスで過給
- NHRA仕様の速いクルマは、1/4マイル(日本で言うゼロヨン)を6秒切り、250mph超で駆け抜ける
つまり、助手席のドアがあるクルマで、どんな市販車よりも速い。ゼロヨン文化で育った日本のクルマ好きなら、この数字のヤバさはすぐわかるはず。
【ここがヤバい】サイレンサーなし、触媒なし、カマロ型の怪物
今回のクルマはフロントフェンダーに「Camaro」のロゴ、ボディは黒と赤のカーボン調ラッピングにシャープなストライプ。ブロワーはボンネットからまっすぐ突き出していて、フロントタイヤのすぐ後ろのボディ側面から短いエキゾーストが4本出ている。サイレンサーも触媒もなし。むき出しのヘッダーが路面を向いているだけ。0:06で、手が届きそうな距離をゆっくり通り過ぎていく。
後ろから見ると、もう市販車のフリはやめている。リアタイヤは巨大なドラッグスリック、スタートでフロントが上がりすぎないようにウイリーバーが後方へ突き出し、ゴール後の減速用にパラシュートパックが2つぶら下がる。ウォーターボックスを抜けてバーンアウト。ゴムを温めて、表面をきれいにしてグリップを出す、おなじみの儀式だ。
【発進】0:12、クルーが離れた瞬間


0:12でクルーが歩き去り、おそろいの黒シャツのチームがクルマの後ろに並ぶ。そして、行った。映像は赤と黒のブレになり、タイヤスモークが観客の上を流れ、隣のレーンをオレンジのクルマが一瞬で駆け抜ける。0:20には、カマロはフロントタイヤを宙に浮かせたままはるか先にいて、芝の土手に座ってカメラを構える観客の前を通り過ぎていった。
【会場】トロントから1時間半、オンタリオのドラッグストリップ
トロント・モータースポーツパークは、オンタリオ州カユガにある。トロントから南西へ約1時間半。オンタリオを代表する1/4マイルのドラッグストリップで、ロードレースも開催しているから、トロントから行けるモータースポーツ会場の中でもかなり忙しい場所のひとつだ。なお、このクルマのドライバーとチームはわかっていないので、確認できるまでは名前を出さないでおく。
【編集後記】軽さと精密さの真逆。でもこれも工学だ
僕らが普段追いかけているのは日本のクルマ。精密で、軽くて、賢い。Pro Modはそのすべての真逆を行くけれど、エンジニアリングの塊であることは同じだ。意外な場所に収まったアメリカンV8が好きなら、SlammedenuffのV8スワップ・シルビアS14を。カナダのスーパーカー同乗体験ならケーニグセグ・アゲーラRSの記事をどうぞ。そしてもしPro Modのスタートを間近で見るチャンスがあったら、迷わず行ってほしい。耳栓は必須。それでもたぶん、両手で耳をふさぐことになる。



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